想いは深き水の底へと・・・
2013年 02月 07日
釣れた日も釣れなかった日も。
んでも、どっちかって言うと、釣れなかった日の思い出のほうが強く思い出せるのは、なしてなんだべね?
あの時はこうだった、そういや、あんなことがあったっけな、とか、
ここってこんな感じだったっけか?
なんて思いながらスライドを覗いていくと・・・
いつもオラの手が止まる所があるのだ・・・
No3のファイルの後ろのあたり、
此処にはオラにとって忘れることの出来ない思い出がある場所なのだ・・・
岩手県 気仙川支流、大股川・・・
オラはこの川が大好きだった・・・のだ。
初めて大股川に行ったのは何時の日だったっけか?
大股川の春は遅いのだ、そんなことも知らぬ頃、他の河川でドライで釣れ始め、大股だって良くなる頃だべ。
と、来てみたのだが・・・
木々の葉の芽吹きも少なく、魚影の一つも確認出来なかったのだ。
「なんだよこの川、魚なんてホントに居るってか?」
今にもまして、未熟な腕のオラはふてくされ気味で飯を食うことにしたのだ。
「川原から少し上がった小高い平地、そこで座って食うべし。」
背丈ほどの土手をよいしょ、と登ると、目に飛び込んできた紫の点、
よく見るとそれは無数に、所々に固まっては散らばり、咲き誇るカタクリの群生があったのだ。
「こんな所にこんな場所があったんだ・・・」
うつむき気味に咲くカタクリの花は、見つけられ、恥ずかしそうに照れる、めんこい女性のように見えたもんだべ。
魚は釣れずとも、「来て良かった・・・」そう思ったのだ。
それからオラは大股川へと通った、春夏秋と、上流から下流まで、何年も・・・
そして、少しばかり判ったこと・・・大股川は地上も水中も、多くの命を育む川だということを。
何年か過ぎた、ある真夏の日、今から14~15年も前の事だったべか?
その日は異常なまでの猛暑日で、Tシャツを川に浸しては絞り、暑さをしのぎながら川へと刺さっていたのだ。
「なんたら暑いってや、これじゃあ魚だって出やしねえべ、いっそ、水温の低い上流へと移動するべか?」
「いや、この先のいつも魚が付いてるあそこ、覗いてみてからでもいいべ・・・」
その先には、状況が悪くとも不思議と岩魚が出てくれる、お気に入りの区間があったのだ。
「あそこで出なけりゃキッパリあきらめ移動するべし。」
オラはキャストの邪魔になる枝は無いかと、後ろを見上げたとき、妙な物が見えたのだ・・・
「何だありゃ?」
手に持った8ftのロッドが届くかどうかの高さにある物、逆光で良くは見えなかったのだが、
その妙な物は、鳥のように見えたのだ。
ただし、その鳥は飛んでいるでもなく、木に止まってるでもなく・・・
頭を真上に向けて、羽を閉じ、空中に浮いていたのだ・・・
鳥の口から木の枝に繋がる釣り糸がキラッと光って見えたのだった。
「あいや、釣り針飲んでしまったんだな、かわいそうによ・・・」
動くことのないその鳥に哀惜の念を残しつつも、オラはその場を通り過ぎようとした時、
その日にはめずらしく、風が通り抜けたべ。
すでに息絶えたと思っていた鳥は、風を受け止めるべく、翼を大きく広げたのだ。
その時、あの特徴的な青と黒の縞模様も見えた・・・
「死んでなんかいないべ!あれはカケスだじゃ。」
オラはとりあえず一番高さのある石を足場として、手の届く枝を引っ張ってみたが、すぐにちぎれてしまったべ。
「もっと上の枝を引き寄せねば・・・」
リーダーの細い部分をカットし、落ちてる木の枝を結び上に投げ、何度かのトライで上手くいった。
「おし!切れんなよ。」
手のひらにリーダーを巻き付け引っ張る、指の関節の内側にリーダーが食い込み痛かったが、
もう少しで枝に手が届く・・・
何度もバランスを崩したべ・・・そのたびカケスは大きく揺れ、負担がかかってるいるだろうに・・・
やっとカケスがぶら下がっている枝の先端に手が届いたが、両手で太い枝を掴める頃には枝のテンションはかなりのものだった。
両足はつま先立ちでもほとんど体重はかかっていなかった、肩は張り、腕はほぼ限界だったべ。
カケスに手が届く位置まで来たが、まさか直接引っ張る訳にはいかないべ。
「そうだ!クリッパーで糸が切れるかもしれないべ!」
「ちくしょ~!ピンオンリールこれしか伸びねってか・・・」
とにかく右手を伸ばしたべ、最後のチャンスと思い・・・
「切れろ!」
オラはクリッパーを握りしめたべ。釣り糸は切れたのだ。
釣り糸から開放されたカケスは羽を広げ、滑空して川原に降りた。
オラも川原へ転げ落ちた、木の枝が一瞬ザワッと騒いだが、すぐに何事も無かったように静かになったべ。
羽をばたつかせ、暴れるカケスを抑えて川原の流木へと止まらせた。
飛び立てる体力は無いようだった。
「捕まえる訳じゃねえからよ。」
そう言い手を伸ばすが、再び暴れて川原を逃げ回るのだった。
「わかったわかった、暴れるなって、羽が傷ついて飛べなくなったらどうすんのや。」
オラは少し距離を置き、カケスを見ない方向で腰掛けたべ、興味無い振りをするために・・・
そして、独り言のようにポツリ、ポツリと話しかけたべ。
「いつからそうして居たったのや?」
「釣りに来たんだどもよ、さっぱり釣れなくてな・・・」
話すたび、チラリとカケスを見ると、思いっきり警戒しながら鋭い目でオラをずっと見ていたべ。
時間を掛け、少しずつ近づき、ゆっくりと手を伸ばし喉を指で撫でてみた・・・
オラの想いが通じたかは知らないが、おとなしく撫でられるがままにしていたのだ。
「よしよし、お前は賢いやつだべ、どれ、何食ったってや?外してやるから見せてみろ。」
指でくちばしを広げ、中を覗いて見た。
オラは衝撃を受けたのだ・・・
何故って?オラは何の根拠も無いままに、口の中には活き餌付きの餌釣り針があるのだと思っていたのだが・・・
そこにあったのは・・・ブラウンのバイビジブル、8番くらいのでかいヤツ。
ブロンズのフックでバーブが怖ろしく突き出たフックであった。
そいつが上のくちばしの裏の柔らかい肉の部分に深く刺さっていたのだ・・・
「フライも食うんだ・・・」
その頃、たまに聞く野鳥などの釣り針の事故は、餌付きの針によるものと勝手に思いこんでいたのだ。
フォーセップでフライを掴み、引っ張ってみたが、柔らかくともかなり丈夫な皮膚であった。
外そうとするたび。カケスはまぶたを下から上に閉じ、痛みに耐えてることが解った・・・
痛みに耐える顔を見るたび、胸が締め付けられる思いであった。
小さな口にはあまりに大きいフライは、外してやらねば先は無し・・・そう思いさらに強く引っ張った。
「すまねえ、我慢しろ。」
ブチッと、大きく鈍い音がしてフライは外れた。
「よく耐えたな、もう大丈夫だぞ・・・」
そう言い、何度も背中や首をなで回した、迷惑だったろうに・・・
オラは側に腰掛け、しばらくカケスと話しをしたべ、いや、独り言なのだけど・・・
その間、数枚写真を撮らせてもらったべ。
やがて、気が付くとカケスは首をすくめ、目を閉じていたのだ。
「おい、大丈夫か?」
喉を撫でると、鋭い目つきでオラを睨み、ゆっくりと正面を向き、また目を閉じた・・・
『うるせえな、少し休ませろ。』
そう言ってるようにも思えたべ・・・
「じゃあな、元気になるんだぞ・・・」
オラはそう言いその場を後にしたのだ。
釣りを再開する気にはなれず、釣るつもりだった、お気に入りの区間は魚が走るのも気にせず、ただ歩いた。
退渓点へと向かう為に・・・
大股川は30年もの間、地元住民など多くの反対運動のある中、津付ダムの建設が平成19年に着工されたのだ。
大股川のオラの大好きな区間は変わり果ててしまったのだ・・
ダムが完成すれば、あのカタクリも、カケスと出会った川原も、オラの想いと共に深い湖の底に沈んでしまうのだべ・・・
んでも、あの場所、あの日の出来事、カケスの鋭い目は忘れる事など出来ないのだ。
今でも渓に刺さっているとき、
「ジェージェー」という鳴き声が聞こえると、ハッとして姿を捜してしまうのだ。
あの、カケスの子孫であってほしいと願いつつ・・・
http://ameblo.jp/kazuki1030aiko/entry-11292352902.html?frm_src=thumb_module
kingさんの記憶の中の渓はいつまでも色あせることはないでしょうね。
あの時のカケスとともに・・・
タバコを吸うならティップにタバコを突き刺して糸を焼き切る作戦もあるので、次回(あるのか?)試してね。
俺は流れるドライを上空からパクリといかれるとこだった経験あり。
いつかのお父様の話といい、今回の話といい、読みごたえがありました。
こんな文が書けたら、といつも思うのです・・・
ボクも先日、保育園に娘を送って行った時に園庭にうずくまる鳥を拾い、園児たちに揉みくちゃにされないようにと桜の木の股にそっと置いて来ました。
しかしフライフィッシャーと言うのは鳥を助けたり、鳥の敵だったり・・・
難しい存在です。
便利って、そんなに大事なこと?もっと不便でもいいべや・・・・
特に震災を経てから、そんな思いが強まってきました。
人知れず、カエルやヘビなんかも、ロストしたフライの被害に遭っていそうですね。
件のカケスが回復して『フライってぇヤツには気ぃつけろな!』と仲間や他の動物たちに教えてくれていると信じています。
1998年が最後ですからもう15年ご無沙汰なんですね。
下流部のヒカリもさることながら上流部のイワナがとても印象的です。
カワセミも何度か目撃した事があったなぁ。
素晴らしい記事です!
釣り人の視線から釣りの楽しさや釣れなかった時の心理を
描くだけでなく、釣り人が犯してしまう罪、更にはダム問題に
至るまで、この記事には凝縮されています。
そして、その中心にいるのは、自然を愛し釣りを愛するk-fさん。
この語り口もたまりませんね!素敵な話、ありがとうございます!
見させて頂きましたよ、ホントに綺麗な流れだすね。
変わりゆく川を見るのはつらいもんだすね・・・
いっそ、釣り禁止、入山禁止で守られる方が良いってもんだよね。
建設物は人間の財産だろうけど、自然は地球の財産だもんね。
ホントは人間の都合のみで決められないはずなんだけどね・・・
オイラが言ってもそれらしく聞こえないかも
しれないけど(笑)
the-kingfisherさんの優しい気持ちがとても
良く伝わってきました。
カケスの子孫きっと渓を飛び回って
いる事でしょう。
おやおや、シビレテくれちゃいましたか。(笑)
ガーン!そんな簡単な方法があったすか・・・
たばこは吸わないけど、ライターは持ってたから、木の枝焦がして釣り糸切れば良かったんだね・・・
マジでへこんどります・・・
ドライを直接とな!?そりゃあ、あせるよね。
オラは川ネズミ釣ったことあるけど、こいつはでかい岩魚だべ!
って興奮してたら、陸に上がって走り出して・・・思いっきりあせったのす。
軌道修正?いやいや、いつでも下ネタ受付しとりますよ。(笑)
ただただ、事実を外さず、見栄を張らず、わかりやすくと思って書いたのですが、難しいもんだすな。
いわなたろうさんのラーメン記事の、完食感謝じゃないけど、完読感謝だすよ。
人って、矛盾だらけだよね・・・
正直、嘘、真実も矛盾も、無くてはならない物なのかもね。
便利と引き替えに大切な物が無くなるんだったら、多少不便なほうが良いよね。
カタクリって、花が咲くまで7~8年、春に咲き始めて2ヶ月ほどで茎も葉も溶けるように無くなるんだって。
道理で夏に捜しても葉っぱっも見つけられない分けだべ。
工事も大切だけど、見えない所に大切な物があるかもね・・・
是非ともあのカケスは仲間にフライ注意報発令してて欲しいすな!魚は抜きにしてね・・・
と、いうことは・・・正にオラがカケスと出会った頃なんでないの?
オラは若かった、正平さんも若かったべ?
人は歳は取るけど、出来れば思い出の川はそのままであって欲しいすな。初恋の人への想いに似てるんだべか?
いや、そこまで褒めてもらえるなんて、なんともこそばゆいすな。
カケスの口にフライが見えたとき、今まで枝に引っかけたフライの数を思い、オラも同罪だということに気が付きショックだったのです。
人は食って生きる為には命の犠牲はさけられないけど、無意味な犠牲はさけなきゃね。
オラの方こそ読んでもらってありがとうだすよ。
どんなときでもイヤらしく、エロいカバさんだけれども、(笑)
人より優しいカバさんを知ってるぞ~。
エロさは2倍、優しさ3倍だべ?
いや、エロさのほうが3倍かな?
あのカケスの子孫に、川でウンコ引っかけられに今年も来てね!
あの時の北上の桜凄かったなぁ(今も多分凄いでしょうけど)
深夜、街灯よりわずかに映える桜を眺めながら北上川を渡り、小烏瀬川、気仙川、盛川を釣るのが僕のルートでした。
ちなみに僕はバイジビブルは使わないので「シロ」ですからね(笑)
北上の展勝地だすね。
今でも満開の時は凄いすよ。
久しぶりに来てみたくなったら案内するからね。
フックを見るからに、アイにバリがあったりして、安物セットに使われるような粗雑なフックだったすよ。
この一件から、オラもバーブレスとかフックやティペットの回収に、より気を遣うようになったのす。