神様から貰った時間・・・



人の寿命って、ロウソクみたいなもんだべかね?

それぞれ人によって細かったり太かったり、長かったり短かったりしてね。

ケガや病気なんかで炎が消えそうになっても、再び灯せることができるなら・・・

んでも、自分がどれだけの大きさのロウソクを持っているかなんて、誰も知らない事なのだ。

ロウソクが尽きた時が最後の時ならば、それに従うしか無いんだべね。

貰った命の時間を無駄にせず、途中で灯が消えてしまわないように・・・

自ら消すことが無いように、精いっぱい生きる事が人の務め・・・なのかね?



んでも、誰かの命の灯が消えそうに瞬いているとき、

身近な者はいったい何ができるんだべね・・・





数年前、親父が亡くなる時、こんなことがあったのだ。

入院先の病院から連絡があり、病院へと駆け付けたが、そこで医者に言われた言葉が・・・

「今晩持ちこたえられるかどうか・・・」

昏睡状態で声をかけても全く反応もせず・・・

家族で駆け付けたのだが生憎、母はインフルエンザにかかっていた為入室を断られてしまった。

非情とも思えたが、どうこう言ってもしょうがない事、病院側からすればそれも止む無し、母は自宅で待機することになったのだ。

消灯時間を過ぎた病室には、小さな常夜灯と、心電図のモニターの明かりのみ、薄暗い中、

声をかけても手を握っても何の反応もない親父の側で座っていたのだ。

そんな思わしくない状況は二日ほど続いたのだ。

二日目になると、親父が生きてる証の心電図の規則正しい音が乱れ始めたのだ・・・

ウトウトしかけた頃に鳴り響く心電図の警告音に我に返る。

落ちついたと思えばまた鳴り響き、ナースコールをするのだが看護婦が来るまで何と長く感じたことか・・・

それでも、別な病室でも鳴る警告音に、看護婦を責めることも出来ず、自分で何とかしようとしても

願わくば、自分の命を分けようと、手を握るも何も変わることなど無かった。

ただ、側に居ても何もできない自分に無力感しか感じなかったのだ・・・

母も居てもたってもいられず、深夜に看護婦に懇願し、30分だけ、という条件で病室に入ることを黙認してくれたのだ。

結局のところ、側に居ても手を握って声をかける事しかできなかった。





しかし、朝になると親父が目を覚ましたのだ。

意識の戻った親父が一言目に言った言葉が・・・

「火事が?」

その時は、なぜそう言うのか分からなかったのだが・・・

「いや、火事じゃねえぞ。」

「火事じゃねえのが?ここは何処だ?」

「ここは病院だ。」

「ああ、そうか、病院か・・・」

小さくうなずいて、自分が入院してここに居ることを思い出したようだった。



それから、1時間もすると、親父はオラも医者も驚くほどに回復したのだ。

入院した時の、息も絶え絶えに苦しそうに話す姿ではなく、頭の後ろで手を組み、足も組み、

流暢に会話する変貌ぶりに、これならもう大丈夫だと思ったほど・・・

主治医の表情には、何故?という想いが見えたのだが・・・

不思議ではあったが不安は無かったのだ。

目の前の元気な姿は疑う余地のない事だったから。

「何?もう二日も寝たままだったってが?じゃっじゃっじゃっ、ドラマの続き見逃してしまったじゃ!」

「どれ、新聞も見ねばなんねえな、売店行って買ってこじゃ。」

家でくつろぐ様な姿は数年前の入院する必要のない親父を見ているようだったのだ。



そして、意識の無かった時の事を話し始めたのだ。

「ずっと、火事の中を歩いていだった・・・」

「炎の中をな、どこに行けば良いのかも分からず、さまよっていだった・・・」

「途方に暮れて足を止めると、お前達の声が聞こえて来たったじゃ・・・」

「そう言えば、母さんの声も聞こえて来たったぞ。」

オラは母さんはインフルエンザで入室を断られたが、少しの時間だけ入室させて貰ったことを伝えたべ。

「あぁ、そういう事が・・・んだべ、ちゃんと声聞こえだったもの。」

「身体中が燃えるように熱くてな、それでも声を頼りに歩いてだっけば、誰かに水をザッパリど掛けられだったのよ。」

「全身ずぶ濡れになったっけば、目が覚めだった・・・」


夢でも見てるのかと思ったのだが、意識が戻った一言目が「火事か?」と言った理由が今解ったのだ。

それと、途方に暮れて足を止めた時ってのは、心拍が弱くなった時の事なんだべな、そのたびに必死に声を掛けたったから・・・

「お前達の声が聞こえながったら、こうして戻って来れながったがもな・・・」

「んな事はねえさ。」とは言ったものの、本当にその通りかもしれないな・・・と思ったのだ。

「ずっと此処に居て疲れたべ?家に戻って休めじゃ、心配すんな、もう大丈夫だからよ・・・」

これだけ元気になれば大丈夫と思った・・・

家に戻る途中、病院を出て5分も経ってない頃、携帯電話が鳴った、発信元は病院から・・・

それからはあっという間だった・・・

やはり声を掛ける事しか出来なかったが、親父には聞こえていると信じて声を掛け続けた。

最後まで・・・

数年前の事であったが、今思えば、僅か数時間の親父の元気な姿は、神様がくれた時間なんじゃないかと思っている。





そして、ついこの前も・・・

義理の父の命の灯が瞬き始めていたのだ。

去年、余命宣告を受けながらも、治療と手術を何度も受け、人生の集大成として大業を成し遂げるまで、あと3か月・・・

主治医の説明はこれからの事は何一つなく、受け止めなければならない、つらい現実だけであったのだ・・・

わかってはいたのだが、遂にこの時が来てしまったのか・・・

ただ、その時が来るのを待つ事しか出来ない絶望感に、がっくりと肩を落として黙り込む嫁に何も声を掛けることが出来なかった。

けれども、数年前の親父との出来事が頭に浮かび、一言伝えたのだ。

「手を握って、此処に居るからと声を掛けてやれ、どんな状態でも父さんにはお前の声はちゃんと聞こえてるから。最後まで・・・」

小さくうなずき、病室へと入る後ろ姿を見送るのみだった・・・

















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by the-kingfisher | 2018-08-09 14:12 | その他

岩手の田園地帯に生息する田舎者のフライフィッシング日誌、ちゃんと更新すんだべが?


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